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東京地方裁判所 昭和47年(ヨ)2035号 判決 1973年1月17日

申請人 大久保智正

被申請人 宗教法人世界救世教博愛協会 外二名

主文

1  申請人が、被申請人宗教法人世界救世教博愛教会の代表役員教会長の地位にあることを仮りに定める。

2  被申請人寺島の、被申請人宗教法人世界救世教博愛教会の代表役員教会長としての職務の執行を停止する。

3  被申請人宗教法人世界救世教博愛教会は、申請人に対し、昭和四七年六月一日から本案訴訟確定の日まで一か月一六五、〇〇〇円の割合による金員を毎月三日限り支払え。

4  申請人のその余の申請を却下する。

5  申請費用は、全部被申請人らの負担とする。

事実

第一申請の趣旨

一  主文1および2同旨

二  被申請人宗教法人世界救世教(以下単に「被申請人教団」という)が昭和四七年五月一日被申請人寺島を被申請人世界救世教博愛教会(以下単に「被申請人博愛教会」という)の代表役員に選任した行為の効力を停止する。

三  被申請人博愛教会は、申請人に対し、昭和四七年五月一日から本案訴訟確定の日まで一か月一六五、〇〇〇円の割合による金員を毎月三日限り支払え。

第二申請の趣旨に対する被申請人らの答弁

一  本件申請をいずれも却下する。

第三申請の原因

一  被申請人教団は、岡田茂吉師を教祖と仰ぎ、その教議を布教、具現することを目的とする宗教法人であり、申請人博愛教会は、被申請人教団と被包括関係にある七〇余の宗教法人(以下「被包括教会」という)の一つであつて、申請人は昭和四六年四月一日以来被申請人博愛教会の代表役員(教会長と呼称する。)の地位にあるもので、その職務の対価として毎月三日一か月一六五、〇〇〇円の割合による金員の支払を受けていた。

二  被申請人教団は、昭和四七年四月二五日付で申請人を右代表役員の地位から解任して同年五月一日その旨登記を了し、同日その後任として被申請人寺島を右代表役員に任命し、同日その登記を了した。

三  しかし右申請人の解任、および被申請人寺島の任命は、いずれも被申請人教団および被申請人博愛教会の規則ならびに宗教法人法に照らし、到底適法なものではない。

四  被申請人教団は、昭和四七年三月九日被申請人博愛教会を含む全国七十余の被包括教会に対し、被申請人教団との合併を申入れ、同月一八日までに合併に必要な書類を送付するように指示した。申請人は、合併契約の具体的内容が明らかでないこと、被申請人教団は、政治団体である日本民主同志会と密着し、これに資金を流出させている疑いもあつて、被申請人教団自体の正常化を図る必要があり時期的にも合併は適当でないこと等を理由に、他の被包括教会の有志とともに右合併に反対し、その運動をすすめてきた。前項記載の申請人の解任と被申請人寺島の任命は、被申請人教団が申請人を排除して反対運動を抑圧し、被申請人博愛教会との合併を強行するためになしたものである。

五  申請人は、被申請人博愛教会から同年六月一日以降前記教会長の職務の対価の支払を受けておらず、生活に困窮している。

六  申請人は、被申請人らに対し、前記解任および任命の無効を主張して代表役員の地位存在確認等の本案訴訟を提起すべく準備中であるが、申請人が教会長の職務を行いえないことにより、また前記合併が強行されることにより生じる被申請人博愛教会の精神的財産的損害および申請人の生活上の困窮を防止するため申請の趣旨記載の仮処分の裁判を求める。

第四申請の原因に対する被申請人らの答弁

一  申請の原因第一、二項のうち、申請人の教会長としての職務の対価の受領の点を否認し、その余の事実はいずれも認める。

二  同第三項の主張は争う。申請人主張の解任および任命が適法なことは後記抗弁欄記載のとおりである。

三  同第四、五項の本件仮処分の必要性の主張は争う。被申請人教団は、被申請人博愛教会との吸収合併を白紙にもどし、申請人の代表役員の地位に関する本案訴訟終了まで吸収合併手続に着手しないことを声明した。被申請人寺島およびその他の被申請人博愛教会の役員も同様の趣旨のことを表明している。また、被申請人博愛教会の役員、幹部および信者全員は申請人の解任を支持し、申請人に帰依していない。

よつて本件仮処分の必要性はない。

第五被申請人らの抗弁

一  本件申請人の解任は、つぎのとおり被申請人教団の懲戒規程にもとづく罷免として適法である。

1  被申請人博愛教会の規則(以下単に「教会規則」という)三五条は、被申請人教団の規則(以下単に「教団規則」という)の効力が被申請人博愛教会に及ぶ旨を定めている。

2  教団規則六六条は、「規則を施行するための細則は、責任役員会および教議会の議決を経て教規または規程で別に定める。」旨規定している。

3  同条にもとづいて昭和四七年三月二五日に制定施行された懲戒規程は、理事、(及びその代務者)、教議員、教会長(及びその代務者)、教師および信者について、つぎの各号の一に該当するときは、審定委員会の審決にもとづき、総長(被申請人の代表役員の呼称)が理事会(責任役員会の呼称)の議決により、戒告、停職(一日以上六か月以下の職務執行の停止、無給)、罷免、除籍の懲戒処分をなす旨規定している。

(一) 被申請人教団または被包括教会などの秩序を乱し、または信用を毀損する行為のあつたとき。

(二) 文書または印章を偽造または変造し、もしくはこれを行使したとき。

(三) 職務上の義務に違反し、または職務を怠つたとき。

(四) 諸願出書に虚偽の記載をしたとき。

(五) 理事(およびその代務者)、教議員、教会長(およびその代務者)、教師または信者としてふさわしくない非行があつたとき。

(六) 前各号に附和したとき。

4  申請人には、つぎのとおり前3記載の懲戒すべき事由があつた。

(一) 3の(三)に該当する事由

(イ) 申請人は、被申請人博愛教会の代表役員でありながら、昭和四七年三月一二日ころから、居場所を明らかにせず、連絡をとることもできない状況にあり、同被申請人の事務所にも出頭する見込みもなく、その間責任役員、会員代表その他同被申請人の関係者に対し何らの指示も与えなかつた。

そのため、教師会、教会月例会、支部長会、世話人会等の教会行事、同年四月五日から同月二八日まで開催される被申請人教団の奉祝大祭の準備等被申請人博愛教会の運営に重大な支障をきたした。

(ロ) 申請人の活動は被申請人教団の批判に終始し、教団での幹部会に出席してもその真相を教会幹部、信者に伝えなかつたし、教団の機関誌「栄光」の記事についても曲解して信者に説明した。

(ハ) 被申請人博愛教会の責任役員のうち申請人を除いた他の二名から同年三月二四日の責任役員会招集の請求を受けたのに、教会に出頭せずその会も開催しなかつた。

(二) 前3の(一)に該当する事由

(イ) 申請人は、被申請人教団の包括する他の教会長ら五名とともに、同年三月一六日「世界救世教の現状並に被包括教会の吸収合併に関する公開質問状の件」と題する文書を堀内照子ほか多数の被包括教会の教会長に配布したが、右文書中には、「被申請人教団は、右翼団体である日本民主同志会中央執行委員長の松本明重氏が外事対策委員長の要職を占めてから日本民主同志会の宣伝活動に利用されつつある。」旨、「松本明重氏は、教会長某氏や役員某氏らに対し暴力沙汰に及んだ。」旨、「被申請人教団内で言論が圧迫している。」旨、および「被申請人教団が開設した京都市所在恒心館の購入および改修に関し、教主様の御意見を無視し、こころある教議員の反対を押えて購入改修を実施した責任者は自らその責任をとるべきではないかとの声が多大である。」旨いずれも虚偽の事実を記載し、被申請人教団、総長川合尚行、外事対策委員長松本明重らの名誉、信用を毀損した。

(ロ) 申請人は、毎月四日、二〇日、二一日に被申請人博愛教会の会議室で、支部長、教師ら幹部約一五名に対し、「教主様を被申請人教団の執行部がおしこめている。御面会の場にも理事がいて監視している。」とか、「松本外事対策委員長は暴力事件をおこした」とか述べ、被申請人教団や、その理事、外事対策委員長松本明重らの名誉、信用を毀損した。

(ハ) 申請人は教会世話人約七名を被申請人博愛教会会長宅に集めて「執行部が教主様をおしこめ監視している」とかその外、総長、理事、各委員長を批判した。

(三) 前3の(二)に該当する事由

申請人は、他の数名とともに、被申請人教団とその包括する七一教会との吸収合併を阻止しようとして同年三月一六日付で、所轄庁である文部大臣、文化庁長官、都道府県知事および被包括教会の各教会長に対し、「世界救世教の被包括教会の吸収合併に関する嘆願書」と題する文書を送付したが、その際、宗教法人世界救世更生教会長大槻一雄ほか一一名が承諾しないにもかかわらず、白紙になされた同人らの署名を冒用して同人らをも作成名義人に加えて右文書を作成した。

(四) 前記3の(五)に該当する事由

申請人は、徳行を欠き、教会長としてふさわしくなく、被申請人博愛教会の幹部・信者らから帰依がない。

(五) 以上の事由を理由に、申請人について被申請人博愛教会の責任役員および会員代表から解任および除名の願出書が、責任役員、会員代表、監事、支部長、資格者、世話人、信者一同から解任要望書がそれぞれ被申請人教団の総長宛に出された。

5  よつて被申請人教団の総長川合尚行は、同年四月二五日、同日の審定委員会の審決および理事会の議決にもとづき、申請人を教議員および被申請人博愛教会の代表役員から罷免し、教議員、代表役員、教師および信者の各名簿から除名した。

6  なお審定委員会規程八条は、同委員会が審決するに際し当事者または当該事案に関係ある者の出席を求め、その説明、または意見を述べる機会を与えなければならない旨規定しているが、前記申請人に対する懲戒の審決にあたつて、同委員会は申請人に対し再三にわたつて被申請人寺島(当時の被申請人博愛教会の教会長代務者)を通じて同委員会に出頭し意見を述べるよう連絡をとつたが、申請人が居所を明らかにせず連絡がとれなかつたので事案に関係のある被申請人寺島から意見を聴取した。

7  被申請人教団は、申請人についての右罷免等の辞令書を同年四月二六日被申請人寺島を介して被申請人博愛教会事務所内の教会長室にある申請人使用の机の引出に入れておき、申請人の妻に対し電話で申請人に右辞令書を取りに来るよう連絡したが、申請人が取りに来ず居所も不明であつたので、同年五月二五日ころ申請人の妻に右辞令書を直接手渡した。

二  仮りに、前項の罷免が懲戒規程にもとづくものとしては有効でないとしても、教団規則六六条にもとづいて旧教団規則(昭和四二・一〇・一三~四五・一二・三一)六〇条の懲戒規定にかえて制定された審定委員会規程には、審定委員会は懲戒に関し審決する旨の規定があり、右規程四条一項三号による懲戒処分として有効である。

三  仮りに申請人に懲戒事由がないとしても、教団規則六六条により制定された被申請人教団の教規および教会規則によれば、被申請人博愛教会の代表役員は被申請人教会の代表役員が任命するものとされており、この点からみても被申請人教団と被申請人博愛教会の代表役員との間の法律関係は民法上の委任に類似する契約と解すべきである。したがつて、前記申請人の罷免は民法六五一条一項の準用によるものとして有効である。

四  仮りに以上のいずれもが認められないとしても、前記申請人の罷免は条理による解任として有効である。被申請人教団は従来その包括する教会の代表役員を条理にもとづいて幾度か解任している。

五  被申請人寺島の本件代表役員への任命は、申請人の解任後その後任者としてつぎのとおり適法な手続を経てなされた。

1  教団規則六六条にもとづいて制定された被申請人教団の教規(以下単に「教規」という)二三条は、「教会長またはその代務者は、教師のうちから、当該教会の規則に定める手続または当該教会の責任役員会の議決を経て申請した者を総長が理事会の議決を経て任命する。」と規定しており、教会規則八条はこの点について、「教会長は、会員の中から会員代表が推挙したものを被申請人教団の総長(管長)が任命する。」と規定している。

2  被申請人博愛教会の会員代表は教会規則によれば三名であり、当時相馬啓一、小佐野耕一、五月女正雄がその地位にあつたが、同被申請人代表役員代務者であつた被申請人寺島において同年四月二五日右五月女を解任し、その後任に同日会員(被申請人教団の教修を受けた信者で、教会に登録された者)の中から田中甚三郎を委嘱した。

3  右相馬、小佐野、田中は、会員代表として同年四月三〇日被申請人教団の総長に対し被申請人寺島を被申請人博愛教会の教会長に推挙した。

4  仮りに五月女の解任が有効でないとしても、右推挙は会員代表の過半数である二名(相馬および小佐野)がなせば足りると解しうるから有効である。

5  右推挙にもとづき、被申請人教団の総長川合尚行は、同年五月一日理事会の議決を得て被申請人寺島を被申請人博愛教会の教会長に任命した。

六  仮りに、前項の任命が、教会規則八条に基づく手続の上で有効でないとしても、教規二三条は、「教会長またはその代務者がその職を免じられたときには総長が理事会の議決を経て教会長またはその代務者を特命できる。」と規定しており、右特命として有効である。

第六抗弁に対する申請人の主張

一  抗弁第一項の認否

1  同項1ないし3に記載の事実は認める。

2  同項4(一)のうち、(イ)(但し、被申請人博愛教会の運営に支障をきたしたとの事実は否認する。)および(ハ)記載の事実は認めるが、これにより申請人が職務を怠つたとの主張は争う、その余の事実は否認する。申請人が被申請人博愛教会の事務所に出仕し、職務の執行ができなかつたのは、被申請人教団の執行部が申請人ほか五教会長の吸収合併反対運動に対し多数の青年行動隊員を派遣して事務所を占拠し、教会長の家族を監視威圧する等狂暴的な手段に出るおそれがあつたためであつて、その原因は被申請人教団側にある。

3  同項4(二)記載の事実のうち、申請人が他の教会長五名とともに同欄記載の題と表現内容の文書を配布したこと、および、同年三月初めころ申請人が被申請人博愛教会の役員会で(ロ)(ハ)記載のような発言をしたことは認める。しかし右文書および発言は、被申請人教団を非難したのではなく、川合尚行および松本明重ら執行部による被申請人教団の運営が異状であることを指摘し、同人らの反省と善処を求めたにすぎないから被申請人教団の秩序を乱しその信用を毀損したことにはならない。しかもこれらの事実はすべて真実であり、この程度の言論の自由は当然許されるべきであつて、川合、松本らは被申請人教団の最高幹部の地位にあるものとしてこれを受忍すべきである。

4  同項4(三)のうち、申請人他数名がそのころその主張の如き嘆願書を作成送付したことは認めるが、文書偽造、行使の点は否認する。大槻ほか一一名は、嘆願書の趣旨を十分理解してこれに署名捺印したものである。

5  同項4(四)事実は否認する。

6  同項4(五)の事実は認めるが、申請人解任等の願出書および要望書は、被申請人教団の威圧により作成されたもので、作成者の真意によるものではない。

7  同項5の事実は認める。しかし、申請人が解任等の辞令の交付を受けたのは、同年五月二二日である。

二  懲戒規程にもとづく罷免はつぎのとおり無効である。

1  教団規則六六条によれば、教規および規程で定めるべき事項は、教団規則の施行のために必要なものに限られるところ、教団規則は懲戒について何ら規定していないから、教規または規程で懲戒に関する事項を定めることはできない。

2  仮りに懲戒規程が有効であるとしても、同規程は同年三月二五日に制定されたものであるから申請人の同日前の行為について懲戒規程を適用することはできない。

3  審査委員会規程四条、八条によれば、審査委員会は懲戒に関する事案の審決については、当事者の出席を求めてその弁明の機会を与えねばならないと規定している。しかし申請人は本件罷免等の懲戒について何ら弁明の機会を与えられなかつた。したがつて、本件罷免等の前提となつた審定委員会の審決は違法であり、これにもとづく理事会の議決も無効である。

4  懲戒処分は処分の内容および理由を告知してなされるべきところ、申請人に手渡された辞令には懲戒の理由が示されていない。この点からも本件罷免は無効である。

三  抗弁第二項について

審定委員会規程に、審定委員会が懲戒に関し審決する旨の規定があることは認めるが、これは手続規定であつて実体的懲戒規定を欠くから本件罷免が右規程にもとづくものとして有効であることは争う。

四  抗弁第三項について

被申請人博愛教会とその代表役員との間の法律関係が民法上の委任または委任に準ずるものであることは争わない。しかし、被申請人教団と被申請人博愛教会の代表役員との間には委任関係はないから、被申請人教団が民法六五一条一項によつて被申請人博愛教会の代表役員の解任権を有することは争う。右代表役員についての被申請人教団の任命権も会員代表が推挙したものを単に確認し証明するという形式的な行為であつて、被申請人教団とその被包括法人である被申請人博愛教会との間の関係は支配、統制統轄などの意味を含むものではない。

仮りに被申請人教団ないしその総長が委任者たる地位を有するとしても、解任に関する事項は宗教法人法一二条一二号により教団規則および教会規則に定められるべきところ、これらの規則には何ら規定はないから民法六五一条一項による解任権はない。

五  抗弁第五項の主張は争う。

六  抗弁第六項について

1  同1記載の事実は認める。

2  同2記載の事実中、相馬、小佐野、五月女が当時の被申請人博愛教会の会員代表であつたことは認めるが、五月女が同年四月二五日解任されたとの点は否認する。

3  被申請人ら主張の会員代表による教会長の推挙は、五月女が関与していないから効力を有しない。

4  被申請人教団の総長川合が同年五月一日被申請人寺島を被申請人博愛教会の教会長に任命したことは認める。

5  右任命が特命として有効である旨の主張は争う。

第七疎明<省略>

理由

一  申請の理由第一、二項記載の事実は申請人が申請人主張の月額の職務の対価を得ていたことをのぞいて当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない疎甲第一八号証、本件口頭弁論の全趣旨から真正に成立したと認められる同第一九号証と申請人本人尋問の結果によると、申請人は被申請人博愛教会より代表役員(会長)として月額一六五、〇〇〇円の給与の支払を毎月三日に受けていたことが認められる。

二  被申請人教団の代表役員総長川合尚行が、昭和四七年四月二五日付で申請人を教議員および被申請人博愛教会の代表役員から罷免し、教議員、代表役員、教師および信者名簿から除名したことは、当事者間に争いがない。

三  そこで、被申請人教団の罷免権について検討しよう。

1  被申請人教団が被申請人博愛教会らの被包括教会を包括することは、前記のとおり当事者間に争いがないが、包括関係は、信者と直結する基礎的な団体である被包括教会とこれらの教会を構成団体とする教団との関係を明らかにするだけであつて、このことから直ちに被申請人教団が被申請人博愛教会を支配監督する権限を有するものではない。教団が教会に介入する権限を認めるかどうかは、もつぱら当該教団および教会の規則において定めるべき事項である。ところで被申請人教団の規則中には被包括教会の教会長の罷免については、被申請人ら主張の懲戒規程のほかになんら明文の規定のないことは被申請人らの認めるところである(成立に争いのない疎乙第八一号証によると、昭和四五年一月二三日認証による改正前の規則には、「教会長が左の一号に該当するときは、教主は代表役員および人事局長の意見を聞き、その職を免ずる。一、この教団の教義をことさらに歪曲して布教したとき、二、教主の命またはこの教団の目的に反すると認められる行為をしたとき、三、この教団の体面を汚すと認められる行為をしたとき、四、その他、教会長として不適当と認められる行為をしたとき。」(第六〇条)という規定があつたが前記改正により削除されている)。しかして、成立に争いのない疎甲第八号証(疎乙第二号証)によると、被申請人教団の規則には、「教団に監査委員会を設け教団の財務又は教会の経理に関し監査する」(第四〇条一項)、「教団が包括する宗教団体は教会とする。教会はその名称に『世界救世教』を冠しなければならない。」(第四七条)、「代表役員は教会長をもつて充てる。」(第四八条)「教会を設立しようとするとき、又は、教会が左に掲げる行為をしようとするときは、教団の代表役員の承認を受けなければならない。一、宗教法人となること、二、規則を変更すること、三、合併又は解散すること」(第四九条)、「教会は左に掲げる行為(不動産又は、財産目録に掲げる宝物を処分し又は担保に供すること等重要な財産の処分管理行為を列挙)をしようとするときは教団の代表役員の承認を受けなければならない(以下略)」(第五〇条)、「この規則を施行するための細則は責任役員会及び議会の議決を経て教規または規程で別に定める」(第六六条)、「信者とは世界救世教の教義を信奉しかつ教修を受けたもので教会、教区及び世界救世教総本部備付の信者名簿に登録され、毎月所定の経費を納める者をいう」(第六七条)と規定されていること、成立に争いのない疎甲第九号証(疎乙第一〇号証)によると、右規則第六六条により定められた世界救世教教規には「教会長又はその代務者は当該教会の規則に定める手続、又は、当該教会の責任役員会の議決を経て申請した者を総長が理事会の議決を経て任命する。教会長又は、その代務者の欠けた日から三月を経過し、なお前項に定める後任者の申請をしないときは理事会の議決を経て、総長が教会長又はその代務者を特命することができる。(以下略)」(二三条)旨を規定し成立に争いのない疎甲第一〇号証(疎乙第三号証)によると右規則第六六条により定められた審定委員会規程には「審定委員会は左の事項を審理し審決する。一、教団に属する者の綱紀に関すること、二、教師資格の取消に関すること、三、懲戒に関すること、四、紛議に関すること(以下略)」と定めていることが認められ右規則第六六条により定められた懲戒規程には、被申請人が抗弁一3で主張する規定があることは、当事者間に争いがない。また成立に争いのない疎乙第四四号証によると前記規則第六六条によつて定められた監察指導委員会規程には「この委員会は、左記事項を監察指導し問題の発生を未然に防止すると共に関係者の信仰資質の向上をはかる。一、本部、教会、地区本部、県本部の信仰指導、布教、人事に関すること、二、本部教会、地区本部、県本部の運営(経理及び財産管理を含む。)に関すること、但し、必要に応じ監査委員会の協力を要請する。三、その他本部教会、地区本部県本部から委嘱要請を受けた事項」(第四条)「調査のため本部教会地区本部県本部に立入る必要が生じた場合、本部教会地区本部県本部はこれを拒むことができない。」(第八条二項)と定めていること、被申請人博愛教会の規則に会長の選任方法および被申請人教団の規則の効力が被申請人博愛教会に及ぶことが規定されていることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない疎甲第一一号証(疎乙第一号証)には、さらに、「この教会の会員は正会員及び賛助会員とする。正会員は世界救世教の定める教修を受けた信徒でこの教会に登録されたもの(中略)、すべての会員は会費を負担するものとする。この教会の会員及び会費はそれぞれ同時に世界救世教の会員及び会費となる。」(第十八条)と規定していること。また前記教団規則五〇条と同旨の規定があること(第二三条)が認められること。これらの規定といずれも成立に争いのない疎乙第一一七号証、同第一一八号証と証人松本政二の証言によつて真正に成立したと認められる乙第一一九号証と証人石坂隆明の証言によつて認められる世界救世教は教祖である岡田茂吉が昭和一〇年開会した「大日本観音会」にはじまり、昭和二五年二月、分派を合流して宗教法人世界救世教に改祖したのであるが、その当時から信者が急増したため各地に教会が設けられ、布教に功績のあつた布教師が教祖より命名を受けて教会長に任命されたが、さらに信者の数が増加し組織も拡大したため、内部面の充実と布教活動を容易ならしめる目的で昭和二六年ごろから各教会が独立の法人格を取得する方針がとられ、被申請人博愛教会も昭和二九年五月六日被包括法人となつたという沿革と、前記規則の改正は、教会長の解任については、細則で定めれば足りるとの考慮のもとにされた事実とを考え合わせると、被申請人教団は被包括教会に対しその上部団体としての監督権を有し被包括教会の教会長等の任免権を有するといわなければならないから、被申請人教団に任免権がないという申請人の主張は理由がない。

2  被申請人らは被申請人教団と被申請人博愛教会の代表役員(会長)との法律関係は民法上の委任の性質を有するから民法六五一条一項によつていつでも解任できると主張する。なるほど被申請人教団は、被包括教会である被申請人博愛教会の上部団体として同教会の任免権を有することは前記説示のとおりであるが、被申請人博愛教会は宗教法人として独立の法人格を有しその代表役員は右宗教法人を代表して事務を総理し(宗教法人法一八条三項、教会規則第一〇条)、常に法令、規則及び当該宗教法人を包括する宗教団体が当該宗教法人と協議して定めた規程がある場合にはその規程に従い、更にこれらの法令、規則又は規程に違反しない限り、宗教上の規約規律慣習及び伝統を十分に考慮して、当該宗教法人の業務及び事業の適切な運営をはかりその保護管理する財産については、いやしくもこれを他の目的に使用し又は濫用しないようにしなければならない(同法一八条五項)職責を有するのであり、また申請人がその職務の対価としての給与の支払を受けていたのは、被申請人博愛教会からであることはさきにみたとおりであるから、代表役員に右事務を委任する主体は当該宗教法人である被申請人博愛教会であるといわなければならない。そうすると被申請人教団との委任を解除できる旨の主張は前提を欠くから失当であるが、右の主張は被申請人博愛教会の委任を解除できる旨の主張と解される余地があるので、この点について考えよう。たしかに前記の宗教法人とその代表者との法律関係は準委任の性質をもつものといえよう。しかしそれだからといつて本件の場合に個人間の特別の信頼関係に基づきもつぱら委任者の利益のためにされる一時的な事務を想定して規定された民法六五一条が当然に適用があるとする被申請人らの主張には当裁判所は左袒することができない。前記のように被包括教会といえども独立の法人格を有し(一定の手続のもとにおいて被包括関係を離脱する自由を有する)、その代表者として恒常的に存在する機関としての代表役員は宗教法人法第一八条五項に定める制約のもとではあるが独自の活動をする権限を有しているのである。そして、前記疎甲第一一号証(疎乙第一号証)によると教会規則第九条には「教会長の任期は三年とし再任を妨げない。」と規定されていることが認められること、前記のように被申請人教団の現行規則上被申請人ら主張の懲戒規程をのぞいては、解任の規定は存しないこと、申請人は会長としての月額一六五、〇〇〇円の給与を受けていること、これらの事実を考え合わせると上部機関である被申請人教団がいつでも被包括法人である博愛教会の会長を解任できると解することができないからである。

3  前記疎甲第八号証(疎乙第二号証)疎甲第一一号証(疎乙第一号証)によると、被申請人教団は岡田茂吉師を教祖と仰ぎ、その垂訓を最高神の啓示と信じ、その立教の本義に基づき教義をひろめ、儀式、行事を行ない、信者を教化育成して世界の人類を救済し地上天国を建設する使命を有し、教会を包括しその他この教団の目的を達成するための必要な財務及び業務を行なうこととする(教団規則第一条)目的を有し、一方被申請人教会も「世界救世教の教義をあまねく世界にひろめ儀式行事を行い信者を教化育成して真理の具現により健富和の理想社会を大成しその他この教会の目的を達成するための業務及び事業を行うことを目的とする」(教会規則第四条)法人であつて、いずれも世界救世教の教義をひろめ、儀式行事を行い、信者の教化育成という共同の目的を有するのであり、これらの宗教活動を目的とする法人にあつては他の法人にもまして規則と秩序を保持し強い信仰に基づく団結の必要のあることは自然の理であるから教団及び教会においてはその機関たる教会長が前記の共同の目的に反するような行為をした場合には、明文の規定の有無を問わず、懲戒権を行使することができると解すべきであり、右の行為の結果信頼関係を破壊するに足りる事由があるときは債務不履行による委任契約の解除として解任することもでき、被申請人教団と被申請人教会との関係は前記に説示したとおりであるからこれらの懲戒権または解任権は所属の教会長に対し重畳して有すると解するのが相当である。しかしてこれらの懲戒処分ないし解任は利害関係人の利益を剥奪する重大な結果を招来するものであるから規則において明文の規定を設けることが望ましいといえよう(免職につき宗教法人法一二条一項五号参照)。ところで、教団規則六六条に基づいて制定された懲戒規程に被申請人ら主張の規定があることは前記のとおりであるが、前記のように宗教法人である教団および教会において懲戒権ないし解任権を内在的に有すると解する以上右規定が規則の細則である規程に定められていても、前記疎甲第八号証と証人松本政二の証言とによると右規程は、教議会の議決を経て制定されたことが認められるから右懲戒規程が効力がないとはいえない。また証人松本政二の証言によると右懲戒規程は昭和四七年三月二五日制定施行された事実が認められるから、右規定がその施行前にされた行為について適用されるかどうかも問題とする余地があるが、懲戒権ないし解任権は本来教団に属すると解する当裁判所の見解によれば、自治法規である懲戒規程が制定された場合には処分者は当該法規に該当する事実を主張立証すれば足り、その効力を争う被処分者側においてその処分が処分権の濫用であることを主張立証しなければならないのに反し、このような明文の規定がない場合には、処分者側で被処分者の非行の事実および処分の妥当性を主張立証しなければならない点に相違があるにすぎないことになる。そうすると懲戒規程によると解任と債務不履行による解除との間には、その本質に変わりがないのであるから、以下、申請人に被申請人ら主張のような行為があつたかどうか、そして右行為が解任に値するかどうかについて検討しなければならない。

四1  申請人は、昭和四七年三月一二日ごろから、被申請人博愛教会の責任役員その他の関係者に対し、居場所を明らかにせず、連絡することができない状況となり、同教会の業務について、なんらの指示を与えなかつたことは、当事者間に争いがない。

2  証人鈴木ひさの証言によつて真正に成立したと認められる疎乙第一七号証と同証言および申請人本人尋問の結果を考え合わせると、申請人は後記で認定するように被申請人教団の総長である川合尚行や外事対策委員長である松本明重の施策に批判的であつたため、昭和四六年八月ごろから被申請人博愛教会の幹部や信者に対し、自己が教議員として出席した被申請人教団幹部会の結果報告のさい、教団の執行部のやり方に批判的な発言をしたり、被申請人教団の機関誌である「栄光」の記事についても批判的な解説をしたことがあつたことが認められるが、昭和四七年三月一二日以前に申請人が教会長として被申請人教団の批判に終始したことを認めるに足りる疎明はない。

3  被申請人博愛教会の責任役員のうち申請人を除く他の二名から同月二四日責任役員会の招集の請求を受けたのに、その請求に応ぜず、またそのさい開催された同会に出席しなかつたことは当事者間に争いがない。

4  申請人が同年三月一六日「世界救世教の現状並に被包括教会の吸収合併に関する公開質問状の件」と題する文書を堀内照子ほか多数の被包括教会長に配布したこと、右文書に、被申請人ら主張の事実の記載があることは、当事者間に争いがない。被申請人らは、右文書に記載された事実はいずれも虚偽であると主張し、証人中島誠介、同松本政二の各証言のなかには、右主張にそう部分があるけれども、右供述部分は、証人石坂隆明、同小田部正の各証言および申請人本人尋問の結果と対比すると、容易に措信することができない。そして他にこれを認めるに足りる証拠はない。しかし申請人らが成立を争わない疎乙第五〇号証の一・二によると、右公開質問状が発せられたことについて教主である岡田斉は大いに不快の意を表明したことが認められる。また前記疎甲第八号証(疎乙第二号証)、いずれも成立に争いのない疎乙第九二ないし第九四号証、証人中島誠介の証言によつて真正に成立したと認められる疎乙第五五号証の八と同証言とを総合すると、被申請人教団には、議決機関として被包括教会長を議員とする教議会が設けられており、申請人も教議員であり、申請人とともに公開質問状を作成した石坂隆明は被申請人教団の理事(責任役員)であり、理事は理事会を構成していたのであり、右の正規の機関の開催の外、合併が問題になつてからは、その趣旨の徹底をはかるため、被申請教団は、被包括教会長らを招集して幹部会と称する会合を本部または地区において開催していたから、被申請人教団の執行部のする施策について、不審の点があれば、これを内部の組織内において質す機会があつたことが認められる。

5  申請人が被申請人博愛教会の世話人七名を同教会長室に集めて、「執行部が教主様をおしこめ、監視している」と述べた旨の被申請人らの主張事実は、その日時も明確でなく、前記2で認定した事実以外にこれを認めるに足りる疎明はない。

6  申請人が他の数名の者とともに、同年三月一六日付で被申請人教団と被包括教会との合併についての所轄庁である文部大臣に対し、「世界救世教の被包括教会の吸収合併に関する嘆願書」と題する文書を作成送付し、その写を関係官庁である文化庁長官、都道府県知事および被包括教会の教会長等に送付したことは、当事者間に争いがないが、そのさい、大槻一雄外一一名の承諾を得ないで、白紙にされた署名を冒用して同人らを作成名義人とする文書を偽造したとの被申請人らの主張事実については、これを認めるに足りる疎明はない。なるほど、証人大槻一雄、同小林陽美の各証言のなかには、右主張にそうよう供述する部分があるけれども、これらの供述部分は、成立に争いのない乙第二〇号証の二、証人石坂隆明の証言、申請人本人尋問の結果と対比すると容易に措信することができない。

7  証人丸山和美、同鈴木ひさ、同相馬智の各証言によると、被申請人博愛教会の信者間において、昭和四四、五年ごろから、申請人が妻以外の女性との関係があるのではないかとの噂があり、申請人の妻もこの問題について憂慮していたことが認められる。しかし右の事実以外に申請人が徳行を欠き、教会長としてふさわしくないような具体的な行為をしたことを認めるに足りる証拠はない。またいずれも被申請人寺島信男本人尋問の結果によつて真正に成立したと認められる疎乙第二一号証、同第一四四号証、同第一四六号証の一ないし五、同第一四八号証、同第一五〇号証、同第一五二号証、同第一五四号証、同第一五六号証、同第一五八号証、同第一六〇号証と同証言によると、被申請人博愛教会の責任役員、会員代表、監事、支部長、世話人等の幹部の殆んど全部が現在の教会長である被申請人寺島信男を支持し、申請人を支持していない旨表明していることが認められる。

8  これらの認定事実を外形からみると、申請人の行為は、教会長としてふさわしくない行為というべき部分があることは否定できないが、次項で認定する事実を斟酌すると、右事実だけによつて、教会長である申請人を信頼関係を破壊するに足りる事由があるとして債務不履行により解任し、または、懲戒処分として罷免することはできないといわなければならない。

五1  証人石坂隆明、同金山勇一、同鈴木ひさの各証言ならびに申請人および被申請人寺島の各本人尋問の結果を総合すれば、同年三月一六日前記の公開質問状を被申請人教団の総長川合尚行宛に発したが、被申請人教団は、右申請人らの被申請人教団の幹部に対する反対運動を事前に察知し同月一五日ころ主謀者の一人であつた石坂隆明が教会長の職にある松江市所在の隆光教会の事務所に数名を配置したこと、これらの者は右事務所を占拠し、同教会の事務に従事する者の行動を監視する等石坂を発見したあかつきには同人に対し身体に暴行を加え監禁もしかねない威勢を示していたこと、申請人は同月一六日ころから右事実を知り、かねてより被申請人教団においては幹部に対し反抗した者には相当強圧的な謝意の要求がなされていたので、申請人自身および被申請人博愛教会に対しても石坂および隆光教会と同様な措置がとられることをおそれ、そのころから居所を明らかにしなかつたこと、被申請人寺島が前記四3で認定した被申請人博愛教会の責任役員会の招集請求は、申請人のもとに到達し、申請人より拒否する旨の返答が寄せられ、同年四月初め、被申請人教団から申請人を債務者として申し立てられた職務執行停止仮処分事件の呼出の通知も、申請人に対して到達し、申請人は同月六日の審尋期日に当庁に出頭していること、申請人は同月三一日および同年四月一二日に被申請人博愛教会事務所に立寄つたが、四月一二日には被申請人寺島から「被申請人教団の指示があるので、事務所に来ては困る。」旨云渡されその後教会事務所にいかないこと、その間被申請人博愛教会においては、同年四月一日被申請人寺島が代表役員代務者に任命されたことが認められ、以上の事実を覆すに足りる疎明はない。右事実によれば、申請人が居所を明らかにせず、連絡方法を講じなかつたことについては、必ずしも妥当な措置とはいい難いが、その責任の一端は被申請人教団にもあるといえるし、被申請人寺島が代表役員代務者に任命された後は、被申請人博愛教会の事務にさほどの支障は生じなかつたと推認される。

もつとも、前記疎乙第四四号証によると、被申請人教団の監察指導委員会規程には、調査のため教会に立ち入る必要がある場合には、教会は立ち入りを拒むことができない旨の規定があるが、右規定がいつ制定されたかおよび前記隆光教会への立ち入りが右規定に基づくという疎明はない。

2  成立に争いのない疎乙第一八号証と証人鈴木ひさの証言および申請人本人尋問の結果とによると、被申請人博愛教会の申請人を除く責任役員が申請人に対し責任役員会の招集を請求したのは、被申請人教団との合併手続に必要な責任役員会の議事録作成のためと、責任役員であり教会長である申請人に代わる代務者の選任を議題とするものであり、右請求に対し申請人は、その必要がない旨の理由を付して、右請求を拒否したことが疎明される。

3  前記疎乙第八一号証と成立に争いのない疎乙第二〇号証の一ないし六、証人石坂隆明、同小林陽美の各証言と申請人本人の尋問の結果を綜合すると、次の事実が疎明される。

被申請人教団は、昭和四五年一月前記の規則を改正したさい、教主の地位について従前の「教務を統裁する」を「世界救世教の象徴とする」と変更したが、同年二月松本明重が「月刊ペン」による被申請人教団に関する記事掲載の問題を処理するため、新たに右教団に外事対策委員会を設け、その委員長として迎えられ、翌昭和四六年四月、かつて総長、人事局長、相談役等の被申請人教団の要職を経歴した川合尚行が再び総長に就任し、被申請人教団の新体制の確立が叫ばれるようになつたが、そのころから、申請人およびその他の被包括教会の会長十数名は、教主が総長ら幹部のいいなりになつて、自由に行動し発言する自由を失つているのではないかとの疑念を抱くようになつたこと、前記松本は、いわゆる政治的色彩の強い日本民主同志会の中央執行委員長であるが、同人が外事対策委員長に就任後は、被申請人教団は同会と密接な関係を有するようになつたが、申請人らは、このような関係を続けていくと、被申請人教団が日本民主同志会の宣伝活動に利用され、あるいは教団の資金が右会に流出するのではないかという印象をもつようになつたこと、一方昭和四六年九月教議会において被包括法人合併を前提とする教団一元化の方針が確立されたが、総長である川合は、かねての合併問題については人道的見地にたつて、十分教会側と話し合をしたうえ実施したいと言明していたのに、右方針の確立後は、合併手続の早期実現を図り教会側の処遇について具体的な話し合いをせず、これらの問題を云々することは信仰次元の低い者の考え方であるとして、合併実現後に話し合えばよいとの態度をとり、昭和四七年三月九日被包括法人を吸収合併する旨だけを記載した合併契約案を示し、各教会に対し同月一八日までに合併手続に必要な書類を提出するよう指示したこと。申請人らは、被申請教団と被包括教会との合併自体について反対ではなかつたが合併は被包括教会長の処遇等が明確でないからこのような問題が明らかになつたうえで手続をすすめるべきであると考え、合併につき被申請人教団に白紙委任するような結果となる合併については反対の考え方を持つに至つたこと、従来被申請人教団の内部での会同において、教団幹部に対し盲従せず、現状の批判をしたりした場合はもちろん、執行部の施策について質問をするだけでも、幹部からは誠意のある回答が得られないのみならず、かえつて強圧的に発言についての陳謝を要求されることが再三あつて、前記のような疑点について教団内部においては誠意ある回答や反省を求めることは不可能と考え、右の疑問について誠意のある回答を求めるとともに、被申請人教団の現状についての幹部の責任を追究するため、公開質問状という形式で総長に質問するとともに、これらの公開質問状の写を他の被包括教会長や支部長らの教団内部のものに送付したこと、また申請人らは、同月一六日ごろ、同人らが反対する合併手続について法律上問題があることを指摘して、前記の「世界救世教の被包括教会の吸収合併に関する嘆願書」を文部大臣等に送付したこと、このような事実が疎明される。そして、右文書に記載された事実が虚偽であることを認めるに足りる疎明がないことは、さきに判示したとおりであり、いずれも成立に争いのない疎甲第七五号証、同第七九ないし第八〇号証、同第八四号証の一、二、同第八八号証、疎乙第二八号証、同第三八号証の一ないし一二、一四および一五、同第四三号証の一ないし四、同第五一号証の一ないし八、同第五七号証の二、いずれも原本の存在および成立について争いのない疎甲第九二号証の一ないし四、本件口頭弁論の全趣旨によつて真正に成立したと認める疎甲第七〇、第七一号証、同第七八号証の一、二、同第八九号証、いずれも証人石坂隆明の証言によつて真正に成立したと認める疎甲第七二ないし第七四号証と同証言、ならびに申請人本人の尋問の結果を綜合すると、被申請人教団には、前記で認定したような申請人らの危惧や疑念が生じてもやむを得ないような事情が存在したことが推認されるのである。

4  右で認定した事実によると、申請人が被申請人博愛教会の幹部に対し、被申請人教団の執行部を批判する談話をし、被申請人教団内部において自己の疑念や不安について討議をすることもせず、直ちに公開質問状や嘆願書を作成発送し、被申請人教団からの追求を避けるため、被申請人博愛教会に出仕しないで居場所をかくし、被申請人教団との合併手続に協力しなかつたことについては、それぞれ宥恕すべき事情があるといわなければならない。なお、被申請人教団の教主が「公開質問状」や「嘆願書」について不快の意を表明したことは先に認定したとおりであり、証人山本慶一の証言によつて真正に成立したと認める疎乙第七九号証と同証言によると、申請人の行為が形式的に世界救世教の教義に反することがうかがえるのであるが、前記認定の事実によると、申請人らにおいても、世界救世教自体に叛いたものではなく、むしろ、自らの宗教の将来を憂えて教団執行部に対し反省を求めたところに真意があることが推認されるのであり、多数の信者を擁する大規模な宗教集団においては、執行部に対する批判が生ずることは自然であると考えられるから、このことから解任が正当となるとは解し難い。

六  以上の判示によれば、申請人についての本件解任は当事者双方のその余の主張について判断するまでもなく理由がないから効力を有しないというべく、したがつて被申請人寺島は申請人の後任者として被申請人教会の教会長に任命されたものであるから、その選任手続についての各主張につき判断するまでもなく被申請人寺島に対する被申請人博愛教会の代表役員への任命もまた無効といわざるを得ない。

してみれば、本件仮処分申請のうち、申請人の右代表役員の地位保全および被申請人寺島の代表役員としての職務執行停止を求める部分は、宗教法人としての特殊性からみて被申請人博愛教会の適正な運営を保持するために一応仮処分の必要性があると認められる。申請人はさらに被申請人寺島の代表役員に選任した行為の効力停止を求めているが、同被申請人の職務の執行を停止したのであるから、その必要はないと考える。

申請人が従来被申請人博愛教会から教会長の報酬として一か月金一六五、〇〇〇円を毎月三日に支給されていたことは一で認定したとおりであり、本件口頭弁論の全趣旨によつて真正に成立したと認める疎甲第二〇号証によると、申請人は、昭和四七年六月分から右報酬の支払を拒絶されており、他に収入の途もないので、妻および高校生、中学生、小学生の三人の子供を扶養すべき立場にあつて経済的に困窮していることが認められ、これに反する疎明はない。

七  よつて本件仮処分申請は、主文第一ないし第三項の限度で理由があるから保証を立てさせないでこれを認容することとし、その余の部分は却下することとして、申請費用の負担につき民事訴訟法第九二条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 井関浩 山口和男 広田富男)

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